【歩行研究者が解説!】なぜ高齢者の体力測定が必要か②
高齢者の体力測定は、健康づくりや介護予防に役立ちます。体力が低下すると、歩いたり、起き上がったり、日常動作をするのが大変になってきます。いつまでも元気で自立した生活を送るために、体力の現状を把握し、それぞれに合った運動を行うことが大切です。
体力測定で測る項目は、日常生活とどのように関わっているのでしょうか。今回は、「上体起こし・長座体前屈・6分間歩行」の意味づけについて、まとめました。
上体起こし:日常生活に必要な筋力
上半身の筋力、腹筋の強さを把握するテストです。高齢になるほど、上半身の筋肉はとても大切になってきます。腹筋は、姿勢を保つとき、ベッドから起き上がるときに使います。特に、寝た状態から自分の力で起き上がれなくなると、毎日の生活に大きな支障が出てきます。私たちは、あたりまえのように、寝た状態から上体を起こしています。しかし、腹筋が衰えると、体を起こすことが難しくなり、電動のベッドや介助が必要になります。手すりを用いてイスやトイレから立ち上がるときも、腹筋が使われます。上体を起こす力が弱くなると、誰かに体を支えてもらうなどの介助がなければ、立ち上がれない状態になってしまいます。
腹筋は、加齢によって最も衰えやすい筋肉の一つです。お腹に力を入れて、腰が反らないように良い姿勢を保つと、腹筋を使うことができます。日ごろの暮らしを見直し、日常生活に必要なの筋力を保つことが大切です。
長座体前屈:からだの柔軟性は大丈夫?
長座体前屈では、体の柔軟性を測ります。筋肉が固くなると、血液循環が悪くなります。筋肉が固くなった状態、体が緊張した状態は、腰痛や肩こりの原因にもなります。また、体が固いと生活の中で、不便を感じることが増えてきます。たとえば、「靴下を履くときに、足先まで手が届かない」「物を床に落としたとき、拾うことができない」「靴を履くときに、椅子が必要になる」などです。体が固いと、無理な動きやつまずいたときに、筋肉や関節などのケガをしやすくなります。
体は使わない部位から、だんだん固くなってきます。固くなっている部分を意識して、少しずつ動かしていきましょう。無理をせず、あせらず、ゆっくりと続けることがポイントです。
6分間歩行:自立した生活をする基礎体力
全身の持久力を測るテストで、どのくらい持久力があるかを調べます。3分で行っているところもあります。全身持久力は、酸素を体に取り入れる量と深く関係しています。これが減少すると、心臓・血管系の疾患になりやすく、死亡率に影響するといわれています。心肺機能が衰えてくれば、酸素吸入をしなければならない場合もあります。
心肺機能の他に、足腰の強さと総合的な体力も把握できます。足腰が強くないと継続して歩くことができません。息切れをせずに、5分間以上歩き続けることができるか確かめてみましょう。日常生活でどれだけ体を動かせるかを知り、生活の中で身体活動量を普段から高めましょう。それは、生活習慣病や介護予防につながります。
普段から、歩く距離をのばしたり、速歩きをしたりすることで、呼吸をする力を維持できます。息を吸ったときにお腹を膨らませ、息を吐くときにお腹をへこませる腹式呼吸も効果的です。体を積極的に動かさなければ、酸素を取り入れる力が弱くなり、呼吸をするときに必要な筋力が衰えてしまいます。いつまでも元気に自立した生活をする基礎体力、歩く力を維持しましょう。
高齢者の体力測定を広めよう
体力測定で、自分の衰えてきている部分に気づくことが自立した生活への第一歩となります。測定結果が日常生活にどのように関わってくるかを知ることが大切です。体力測定に参加するだけではなく、その結果をもとに、個人に合った健康づくりの運動を行いましょう。
監修:歩行開発研究所所長 岡本香代子
ARuku編集部
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